新規分野に参入するためには、次の4つが必要だ。
私は、多くの大企業、中小企業における新規事業の企画、立ち上げにかかわってきたが、大企業に比べて、中小企業における新規分野への取り組みは壁が高くなりがちだ。その理由は、たいていの場合、次の4つが不足しているためである。
このような「ないない」づくしの状態で、中小企業において新規事業を進めるためには、何から何まで自社で手がけていたのでは間に合わない。そこで不可欠なのは、異業種企業との「提携戦略」だ。提携戦略とは、ひと言でいえば、「自社単独ではできない打ち手を可能とするための戦略」である。
ここで、異業種企業との提携の目的を整理しておこう。団塊・シニア世代顧客を対象としたビジネスの場合、次の4つが目的となる場合が多い。
(1)が目的の企業には、たとえば、これまで個人顧客相手に直接ビジネスをしたことのないメーカーなどが多い。この場合、すでに多くの年配客を抱えている会員制組織などが提携相手となるだろう。また、個人顧客相手に直接ビジネスはしてきたものの、顧客に若年層が多く、年配層が少ない業態もこの場合となる。
(2)が目的の企業には、たとえば、新規に市場に参入するために、自社で扱っていない商品を他社から仕入れたり、他社製品をOEMで販売したりする商社、ディベロッパー、メーカーなどが多い。この場合、すでにシニア向けの商品を自社で扱っているので、品質・価格ともに競争力のあるメーカー、サービス提供者が提携相手となる。
(3)が目的の企業には、たとえば、新規にシニア市場へ参入したいが、これまでマス・マーケティングが主流で、個人顧客との接点がない、あるいは接点があっても情報を整理できる仕組みのない大手メーカー、流通業、小売業、金融業などが多い。この場合、すでに多くのシニア会員を抱えている会員制組織などが提携相手となる可能性がある。
(4)が目的の企業には、たとえば、(3)と同様の企業、あるいは、すでにシニア層を含めた個人顧客をそれなりに持っているものの、シニア層を重要視しているというメッセージを積極的に発していない大手企業が多い。この場合、シニア層の活動あるいはライフスタイルを応援しようとしている各種団体、NPO、行政など社会的利益を第一義とした組織などが提携相手となる可能性がある。
いずれの目的であれ、異業種提携を活用する目的は、自社単独では不可能な打ち手を可能とし、経営資源と時間の大幅な節約を実現することにある。
大企業においては、そもそも新規事業の立ち上げそのものが敷居が高く、すぐに成果を出しにくい面がある。一般に、既存の収益部門の売上げが大きいほど、新規事業部門はやりにくい。
たとえば、年商1兆円程度のメーカーの場合、すでに全国各地にある営業所で、コストダウンや経費節減、卸価格の引き上げなどの工夫をすることにより、1年程度でも20億から30億円程度の売上げアップは比較的達成できてしまう。その理由は、スケールメリットがあるからだ。ところが、ゼロからの新規事業立ち上げの場合、2年間かけても、その売上げを10億円まで持っていくことすら、難しいのが現状だ。
新規事業部門は、そもそも既存の収益部門の先細りを懸念して、既存の収益部門では取り組めない新しいことに挑戦しており、すでにできあがっているルーチンワークを回すよりも多大な労力が必要だ。しかし、新規事業開発活動が、実際の収益になかなか結びつかないと、既存の収益部門と「同じ土俵」で比較され、「金食い虫」「給料泥棒」と批判され、担当者は社内で肩身が狭くなりがちだ。
社内での新規事業立ち上げの問題が提起しているのは、そもそも、大企業において新規事業に取り組む目的は何かということだ。
「事業規模」を大きくするのが目的なら、短期的には、既存収益部門の売上げ拡大を図るほうが早道だろう。たとえば、不動産会社が、現状より100億円売上げをアップしようとする場合、ゼロから新規事業に取り組むより、売上げ10億円規模の商業ビルを10件立ち上げたほうが、実現は早く、確実である。
しかし、こうした短期的な打ち手は、競合他社も当然打ってくることに加え、ある程度打つと、打ち手がなくなってしまう。しかも、先行き不透明感の強い現代においては、いまの収益部門が3年後、5年後、10年後に収益部門であり続けるかどうかの保証は、まったくない。
したがって、重要なのは、短期的に既存収益部門の売上げ拡大を図りながら、同時に中長期の成長のための布石を打つことだ。この布石が、新規事業への取り組みなのである。