わが国の世帯主の年齢別の正味金融資産(貯蓄-負債)を見ると、60代以上が全世代のなかで最も大きい(図表2-1)。また、世帯主の年齢別持家率でも60代以上が全世代のなかで最も大きい(図表2-2)。つまり、資産ストックの面では、60代以上が最も保有していることがわかる。
出所:総務省統計局平成20年家計調査
出所:総務省統計局平成20年家計調査
ところが、年間所得を見ると(図表2-3)、高齢者世帯の平均値は296.1万円であり、全世帯の平均値580.4万円の約半分と少ない。しかも、高齢者世帯の中央値は229万円であり、100万円から300万円の範囲で最も人数が多いことがわかる。つまり、所得フローの面では、60代以上は決して多くない。
出所:厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成17(2005)年)(同調査における平成16(2004)年1年間の所得)
(注)高齢者世帯とは、65歳以上の者のみで構成するか、またはこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯をいう。
このように、シニアの資産の特徴は「ストック・リッチ、フロー・プア」である。(これは和製英語で、英語ではAssets rich, cash poor、アセット・リッチ、キャッシュ・プアという)。このため、いざという時の出費は可能であり、また、それを可能とするために倹約志向が強く、普段の生活においては無駄なものには出費をしないという消費傾向になっている。
ストックが多いからと言って、それが全て消費に回るわけではない。むしろ、将来に対する明るい展望が見られないために、シニアの三大不安(健康不安、経済不安、孤独不安)がストックをフローに変えにくくしているのが実態だ。
2007年問題が話題になった時、多くの調査会社やメディアが「シニア市場は100兆円の巨大市場」などと喧伝した例が見られた。また、2012年の今年も新聞等では再び「シニア消費100兆円」という見出しが目に付く。
確かに60歳以上の全消費は100兆円を超えていると推計されるが、この理由は60歳以上の人口が増えたからに他ならない。国連の World Population Prospects: The 2010 Revisionによれば、2011年度の日本の60歳以上の人口は 3901万人と推計されるので、一人当たりの消費は、第一生命経済研究所の推計値1012000億円を用いれば、1012000億円/3901万人=257万5千円 =214,600円/月になる。
シニア向け商品・サービスの提供者にとって重要なのは、この月額21万円強のうち、いくらを何に消費しているのかを知ることである。実は、これが意外に知られていない。こうしたデータは、総務省統計局「家計調査」に詳しく掲載されている。
その「家計調査」によれば、世帯主の年齢階級別の1世帯あたり1ヵ月間の消費支出は図表2-4のとおりとなる。
出所:出所:総務省統計局「家計調査」平成22年(平成23年2月15日発行)より村田アソシエイツ作成
特に、世帯主年齢が50代、60代、70代の1世帯あたり1ヵ月間の消費支出は図表2-5のとおりとなる。50代とシニア世帯(60代以上の世帯)とを比較すると、費目別の支出金額が異なることがよくわかる。
出所:出所:総務省統計局「家計調査」平成22年(平成23年2月15日発行)より村田アソシエイツ作成
一方、図表2-4を支出全体に対する割合で示したのが、図表2-5である。年代が上がるにつれて、支出全体は減り、費目ごとの金額もおおむね減っているが、たとえば、食費や保健医療費の割合は年代が上がるにつれて増えていることがわかる。また、教養娯楽やその他の消費支出のように年代が上がっても比率が変わらないものもある。
出所:出所:総務省統計局「家計調査」平成22年(平成23年2月15日発行)より村田アソシエイツ作成